以前に上賀茂について書いた。ならば下鴨も取り上げないわけにはいかない。下鴨は、当たり前だが、上賀茂の川下。西に上賀茂から流れ下る賀茂川、東に八瀬・大原方面から流れ出て来る高野川に挟まれた一帯で、下鴨地区の南端で二つの川は合流して鴨川となり、京都市街中心部へと流れて行く。
賀茂川、高野川、鴨川の流れが地図上で描く線が、Yの字になっていて、賀茂川・高野川の合流点付近が三角形の頂点状のため、ここは「鴨川デルタ」と呼ばれている。若い人たちの間で使われ始めたのが一般に定着したと思われる。地理学用語の「デルタ」はこのような地形のことではないので、私は好きではないが、多勢に無勢、既に通名になっているので仕方ない。
「鴨川デルタ」のすぐ近くに鎮座するのが、下鴨と言えば外せない、下鴨神社(正式名称:賀茂御祖神社)。合流点に対して、南北に一直線に表参道が本殿へ伸びている。上賀茂神社と共に山城国一宮にして世界遺産。京都三大祭の葵祭は、御所から下鴨神社、上賀茂神社へと平安装束の行列が練り歩く。馬場では流鏑馬神事が行われる。境内には御手洗(みたらし)川が流れていて、ここに足をつけて無病息災を願う「みたらし祭」も人気。全国にあるみたらし団子は、ここが発祥とのこと。神社の杜「糺の森(ただすのもり)」は、貴重な動植物相を留める原生林と言われている。
下鴨神社から、下鴨地区を南北に貫く下鴨本通りを北に向かう。下鴨地区を東西に通じる北大路通との交差点一帯が下鴨の中心だ。北大路通を越えて、さらに北の北山通との間には、多くの文教施設が集積している。
中でも最も広大な緑地が、府立植物園。2024年に開園100周年を迎えた。大正天皇の即位記念で開設され、日本で最も歴史ある植物園だそうだ。植物園設置前のこの地は田園地帯で、神社もあった。その神社は今も園内に残されている。太平洋戦争後の非占領期には、アメリカ軍に接収され、軍人用住宅が建ち並んだという歴史もある。
隣には府立陶板名画の庭。さらに隣には京都コンサートホールがある。平安建都1200年記念事業で1995年に造られた。日本唯一の自治体直営の楽団(現在は公益財団が運営)だった京都市交響楽団の拠点だ。
その南には府立京都学・歴彩館。旧府立総合資料館の機能を継承・拡張して2017年にオープンした。隣接する京都府立大学の図書館や研究室も併設されている複合施設。その隣の稲盛記念会館は、京セラ名誉会長の稲盛和夫氏の寄付で建設されたもので、府立大・府立医大・国立京都工繊大の3大学教養教育共同化施設だ。
大学は、京都府立大学の他に、北山通を東に行った先に、ノートルダム女子大学がある。小・中・高も備えたキリスト教女子学園である。下鴨本通りに面した白亜の建物が目を引くが、こちらは府立洛北高校だ。旧制京都一中の流れを引く、府立の名門である。附属中学校もある。