地理学徒の語り

Geographer's Tweet

星のまち・交野(大阪府)

 大阪府北東部、北河内地方に交野(かたの)市がある。大阪の都心から電車で40、50分程度。大阪のベッドタウンだ。

 交野という地名の「かた」は、訓字をあてれば「片」や「肩」で、台地の縁の片方が崖になった所につけられる古代地名である。その名のとおり、交野市から北隣の枚方市にかけての一帯には、交野が原や枚方丘陵といった台地がひろがる。(枚方(ひらかた)も同じく台地の縁の地名)
 交野市には星につながる地名や神社、伝説が多くあり、「星のまち」などとして売り出していて、七夕の様々なイベントなどが行われている。これらのこともこの地の地形・地質に由来する。

府民の森・星田園地にある「星のブランコ」
背景には北摂の街並み、遠くは京都市街まで望める。

 市内に星田という地区がある。交野の地を訪れた弘法大師がここに星が落ちるの見たという伝説があって、北斗七星を崇める星田妙見宮がある。古文書には実際に隕石落下の記録があるらしい。織女(たなばた)石という岩が御神体になっている。ただ、星田は音にあてた当て字で、星とは関係がない。「干し田」とか「乾し田」であって、水の不足する田畑に由来する。砂礫質の台地上は水が得難く、古代には荒野だったようだ。

星田妙見宮

北斗七星ひとつずつに塚がある。

織女(たなばた)石

 一帯の台地を分断するように天野(あまの)川という川が、流れている。「天の川」になぞらえられているが、この地名も天体とは関係がない。川が台地を刻んでできた川沿いの低地は、台地上とは異なり、水田に適する。古代人にとって楽園の地だから「甘野(あまの)」と呼んだ。これが由来らしい。

天野川トンネル
磐船神社付近の狭隘な渓流をバイパスする防災流路

 この天野川は、交野市を南から北へ縦断して、枚方市を抜けて淀川本流に注ぐ。ほぼ一直線だ。川は、台地を切り裂くだけでなく、台地の背後の山地・生駒山地にも渓谷を刻んでいる。この渓谷が、いにしえより、街道の通り道になってきた。和歌山県高野山への参詣道・東高野街道が、淀川の川湊・枚方から天野川の渓谷を遡り、峠を越えて奈良県へと通じていた。現在は国道168号線になっている。同じく天野川に沿って走る京阪電鉄交野線。市内の私市駅が終点だが、大正期の建設当初の構想は、渓谷を抜けて奈良県内までつなぐものだった。

磐船神社
奈良県境に近い天野川の渓谷に鎮座する。

奈良県に通じる国道168号線

奈良県

 これらの台地や川の形成をもう少し広いスケールで見る。大阪府奈良県の境に南北に連なる生駒山地は、地殻変動により、この山塊が次第に隆起して、大阪平野奈良盆地を隔てるようになったものだ。交野が原の台地は、生駒山地の北への延長のようなもので、海だった大阪平野の海底が隆起してできた海岸段丘の跡だと言われている。
 生駒山地はその西側の山麓に隆起の際にできる南北方向の大断層を伴っている。生駒断層という。通例、大断層の周囲には、平行するいくつもの小さな断層がある。天野川の直線的な流路を見ると、川は断層線に沿って流れ、断層の谷を削って、それをより深く刻んできたものと私は推測する。

 地球科学的な大地の動きと、そこに展開してきた人の営み、そして、現代の街のイメージ作りまでの人文現象は、大いに関係することを、交野の地を歩いて再認識した。