地理学徒の語り

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佐世保 - 弓張岳から

 2年前、長崎県を旅行した時、佐世保市の弓張岳の上にあるホテルに泊まった。弓張岳は佐世保市街の背後にそびえる(標高364m)。ここが目的地だったわけではない。ホテル検索サイトで条件が最もマッチしたホテルがここにあったというだけだ。消極的理由で訪れたのだが、ホテル自体よかったが、ここから望む佐世保市街の夜景は思いがけず素晴らしかった。(日の出前の、景色が徐々に白んでいく眺望もまたよかった。)

 細長く深く入り組んだ湾とその周囲を取り囲む山々。その山と海の間の狭い平地から山の中腹まで広がる市街。絶景の夜景で超有名な長崎市と地形的条件が同じなのだから、佐世保の夜景が綺麗なのも当然かもしれない。市街の規模が、「100万ドルの夜景」の長崎の半分程度だから、「50万ドルの夜景」といったところか。

 深く入り組んだ湾という地形を活かした港湾によって発達した長崎と佐世保だが、発展の歴史と港湾の機能は異なる。長崎の歴史はよく知られるところ。鎖国の江戸時代にあって唯一の海外交易港で、往時の交易相手のオランダや中国の残り香が漂う独特の情緒が魅力の観光都市となっている。

 一方、佐世保は、一介の漁村だったところに、近代になって海軍鎮守府日本海軍の基地。他に横須賀、呉、舞鶴にあった。)が設置されて、街が急発展した歴史を持つ。日本海軍消滅後も、海上自衛隊アメリカ海軍の基地が置かれ、一貫して軍港都市の性格が強い。

 そんな佐世保だから、海軍鎮守府時代には、弓張岳に軍港を一望できる展望所を設けることは制限されたようだ。今は、このホテルの他、山頂に展望台があって、昼間なら、これらの場所から、自衛隊・米軍の関係施設や停泊中の艦艇がはっきり見える。戦前・戦中期に、こんな眺望が許されるわけがない。今は平和だから許されると思いたいが。展望所を制限したとて、人工衛星から偵察可能な時代である。意味がないから制限されないだけかもしれない。いずれにせよ、こんな素晴らしい眺望がいつまでも可能であってもらいたい。

佐世保湾の昼景

 付け加えると、佐世保市街の眺望だけでなく、西の方には、西海国立公園九十九島の大パノラマを望むことができる。複雑に入り組んだ半島と湾、点在する無数の小さな島々。遠くには五島列島の島影が横たわる。快晴の青空の下もよいし、サンセットタイムの夕景もまたよい。

九十九島

九十九島の夕景

 長崎県に行ったら、長崎だけでなく、あまり高い期待を持たずに佐世保も訪れてみてほしい。期待以上によいことは間違いない。