地理学徒の語り

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東京ヤクルトスワローズ - 球団の地域戦略

 前にオリックス球団の地域戦略について書いた。今回はヤクルトについて考えてみる。

 東京ヤクルトスワローズ。その前身の国鉄及びサンケイ時代も含めて、1950年の球団創設以来ずっと、東京の球場を本拠地としている(うち1964年以降は一貫して神宮球場)。

 読売ジャイアンツのオーナーによるセ・リーグ創設に伴う球団数拡大に呼応して球団が発足した経緯がある。東京と言えば読売ジャイアンツだが、その東京で一貫して、ヤクルト球団は主催試合を開催し続けてきた。ジャイアンツの天下である東京で、日陰者のようだった時代でも、そこから離れようとしなかったのはなぜか。

 その理由は、やはりジャイアンツの存在が大きい。東京の球場でジャイアンツと試合をやれば、東京一円の大勢のジャイアンツファンがやってくる。自チームのファンがわずかでも、球場は満員になる。これで球団経営は安泰なのである。

 巨人戦以外でも同じ構図がある。例えば広島カープ。地元・広島で圧倒的人気を誇る。広島の人口が大雑把に約100万人。仮にその100%がカープファンだとする。一方、単純計算だが、東京の人口1000万人の1割がカープファンなら、東京のカープファンの数は、広島でのファンの数に匹敵する。同じように、他のチームのファンも、人口の大きい東京には、絶対量として多くいる。東京には巨大なプロ野球ファンの市場が存在する。東京で試合をやっていれば、相手チームのファンの入場で球団経営が成り立つ。

 「巨人には勝たなくていい。」かつてヤクルト球団のオーナーが言ったという。発言の真意について諸説あるが、お得意様のジャイアンツファンに喜んでもらうために、巨人戦では負けろという趣旨とも取れる。球場は満員でも、自分たちを応援してくれるファンはわずかだという、スワローズ選手の嘆きもメディアで見聞きした。

 寄らば大樹の陰。このようなヤクルト球団の経営戦略に私は批判的ではない。経営が成り立たなくては球団の存続はない。対戦相手が無くなれば、人気球団といえどもどうしようもなく、プロ野球が無くなってしまう。いろいろな経営戦略があってよい。それに、各球団の経営にも多様性がある方がおもしろい。

 とはいえ、そんなヤクルト球団も近年は(と言ってももう結構長くなったが。)自前のファン拡大に努めている。頼みの綱のジャイアンツに往時のような圧倒的人気が無くなってきたことが影響していると思うが。

 他の多くの球団に倣って、2006年から本拠地「東京」の名をチーム名に冠するようになった。「東京」を打ち出すことはいいと思う。東京地元民に向けては東京ローカル性を主張できるのに加えて、「東京」という言葉は、全国区でもアピールできるからだ。地元・東京では、ジャイアンツとの対抗性をもっと強く打ち出す。それとともに、地方での開催試合を増やして、全国的な人気球団を目指す。資本関係のあるフジ・サンケイグループのメディア力も大いに活用できる。頑張ってもらいたい。

 最後にスワローズの名誉のために。チームが強くなった今では、満員の神宮球場の少なくとも6割がスワローズファンで埋まっている。